大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)3871号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
第三損害
1受傷、治療経過、後遺症状
(一)<証拠>を総合すれば
(1) 原告は、事故前、夫を補助して農業に従事し、一家の主婦として、祖母の助けを借りてはいたものの家事労働にも従事しており、本件事故以前には腰部、下腹部、下肢に痛みはなく、農作業においては、夫を補助して重作業を行なつていたのに、本件事故後は腰を曲げたり、歩行するにも下肢などに痛みを覚えるなどのため、重量物の運搬が不可能になつたばかりでなく、農作業、家事労働にも不自由が生じるようになつた。
(2) 原告は、本件事故により、頭部打撲、仙骨右側に横走する亀裂骨折、左恥骨(挫骨との境界部)骨折、腰部打撲の傷害を受け、昭和五六年一〇月一七日より同年一二月二二日まで冨永診療所に入院(六七日)、昭和五六年一二月二三日より昭和五七年七月三日まで同病院に通院(実日数一四四日)、昭和五七年二月一九日より昭和五八年五月一八日まで県立西宮病院へ通院(実日数一二日)、昭和五七年八月一九日より昭和五八年五月三一日まで三田市民病院へ通院(実日数二〇七日)して治療を受けた。なお、右入院期間のうちの五六日間にわたり、原告は、腰部にギブス固定をされていたために付添看護を要する状態であつたが、事故後に発病した本件事故とは無関係の白内障及び眼圧亢進の症状により、全通院期間にわたつて原告の夫が付添つた。
(3) 冨永診療所医師の紹介により原告の治療にあたつた県立西宮病院では、右医師の紹介の内容が第一に眼科治療、第二に腰部リハビリのための整形外科治療を要請することにあつたことから、同病院眼科医師は原告の眼の症状を白内障と断定し、眼圧亢進とともに本件事故とは直接の関係はないものと診断し、同病院整形外科医師は、原告の腰部の症状は第一仙椎部の骨折と第五腰椎の変形により第五腰椎と第一仙椎間の隙間が極端に狭くなつていることが原因であると判断して治療し、リハビリを続け、投薬療法を施していた。しかしながら、眼科における治療が一応終了した時点で、原告の腰部への整形外科における治療方法が、リハビリ中心の治療であつたことから、原告の通院交通の便を考慮し、同病院整形外科医師は、原告を三田市民病院へ紹介し、原告は右紹介によりリハビリのため同病院へ通院した。
(4) 原告の治療にあたつてきた県立西宮病院医師は、昭和五七年八月二五日、原告の症状を、自覚症状としては腰痛、下肢しびれ感、倦怠感、上肢しびれ感、脊椎可動制限を、他覚症状としては二か所の骨盤骨折の化骨は良好であるが、仙椎部骨折部と第五腰椎部の狭少化、第五腰椎変形の後遺障害を残して症状固定したものと判断したが、その際、原告の後遺症状の予後の見通しとして、現在の症状は永く続くものの、重い物を持つとか、中腰の姿勢のままで仕事をすることは控える必要があるが、日常の生活を営むことは、リハビリの意味でも、また、右症状に原告の生活状態を慣れさせる意味でも、これを続ける必要があるものと認め、原告にこれを指示した。
(5) 原告の症状を鑑定した鑑定人は、第五腰椎の変形、すなわち、その骨棘形成は、一般に、椎間間隙が相当短期間に狭少化することはあつても、その結果として続発する骨棘形成は相当の日時を経過してのちに形成されるのが通常であるのに、原告の場合、本件事故後比較的短時日に撮影されたX線写真でも、また、その後経時的に撮影されたX線写真でも第五腰椎と仙椎間の状態に大差がないこと及び右の変形が部位としても加齢による退行変性の好発部位でもあり、また、潜在脊椎破裂は外傷によつて通常発生しないことから判断して、第五腰椎と仙椎間の間隙の狭少化と、第五腰椎下縁にみられる骨棘形成などの変化は、本件事故と無関係の既存のものと推察すると鑑定し、鑑定時における原告の症状を、骨盤骨折後の腰痛及び両下肢痛並びに軽度の両下肢筋力の低下があるものと認定したが、右の症状は、原告の受傷部位から判断して、第五腰神経、第一仙骨神経領域の損傷を合併しやすい部位であり、原告の臨床症状においても、右損傷を裏づけることができるとし、原告の事故前の職務の内容及びその状態なども考慮すれば、原告の後遺症状は後遺障害第一二級一二号に該当するものと判断した。
<証拠判断省略>
(二) 右事実によれば、原告の本件事故による傷害が、仙骨右側に横走する亀裂骨折、左恥骨骨折を主症状とするものであり、原告の既応症である第五腰椎の変形による神経症状を誘発するとともに、右傷害の部位及び臨床症状から、第五腰神経、第一仙骨神経領域の損傷を合併したことが認められ、右障害のため治療が長期化し、昭和五七年八月二五日症状固定した後遺症状として腰痛、下肢、上肢のしびれ感が感じられる神経症状が残存し、後遺症状の予後の見通しとしては、傷害の部位程度から考慮すると、相当長期間右の神経症状が残存することが認められるものの、人間の適応能力を考え合せると、リハビリ治療のためにも、軽作業を続けていれば、右神経症状は次第に軽減していくものと推認されることが認められ、また、右事実によれば原告の右症状には、本件事故と因果関係のない既応症としての第五腰椎の変形及び第一仙骨と第五腰椎間の狭少化が、事故発生直後より、これに寄与していることも認められ、かつ、原告の後遺症状のうち脊椎可動制限は、本件事故と因果関係にない右の変形及び狭少化が直接の原因となつていることから、これを本件事故と相当因果関係にないものと認められる本件においては、原告の右の如き既応症が原告の損害にしめる割合はこれを二割と認めるのが相当である。
(坂井良和)